麻文化研究者 中山康直氏が語る"麻ことのはなし"

日本では昔から、大麻草のことを麻(あさ)と呼んでいました。英語ではhemp(ヘンプ)と言います。麻からは天然の良質な繊維や栄養豊富な食材、生薬の原料が取れます。最近では麻の実やヘンプオイルがスーパーフードとして世界中で話題になっています。
さらに、最近の研究によって、麻の花穂や葉に含まれる薬効成分が様々な難病を治療する薬になることが判ってきており、医療大麻として注目されています。
戦後に大麻取締法がGHQの方針で禁止される以前は、日本では麻を栽培することが国家によって奨励されていました。


その3. エネルギーと麻



ヘンプカー


私たちが尽力しているのがヘンプカー・プロジェクトです。
2002年から始めて2011年、東北の311の地震をきっかけに再開して、毎年日本のどこかを走っています。

ヘンプカーと呼ばれるものは、大きく分けて2種類あります。

 1. ヘンプの種子や茎から搾った油を燃料として走る車。
 2. 車の内装材や外装材にヘンプの茎を使用している車。

私たちのヘンプカーは前者で、そのポイントは、自分たちで燃料を作っていることです。

フォード社のヘンプカー

ヘンプカーが地球上に登場したのは1940年代です。車のメーカーで有名なフォード社が大地から生まれたオーガニックカーということで論文も発表されて世界的に話題を呼びました。
この車は骨組みのスチールは鉄ですが、それ以外車体の内装・外装の約80%が麻の茎から出来ています。
普通の車と比較して衝撃強度が10倍、重量が3分の1、安全で安心で燃費の良い車ができたにも関わらず、石油資源を推進する政策によって歴史の表舞台から消え去ってしまいました。

再び2001年には、アメリカで今度は麻の油で車を走らせるヘンプカー・プロジェクトが行われましたが、この年は911が起きたことで後半尻切れトンボのようになってしまいました。
そこで、その翌年の2002年、有志たちの協力もあり、僕自身が運転して、日本で北海道から沖縄までの1万3千キロ麻の実油のみで日本を縦断するプロジェクトを敢行したのです。

今では、ベンツ、ロータスエリーゼ、カナダの電気自動車、BMW、プジョーなとが内装材に麻の茎を使い始めています。
2014年にプジョーが発表したこの車は、ドアパネルに麻の茎の素材を採用することによって約4分の1の軽量化に成功しています。
日本のメーカーも着眼しているますが国内にはこの素材が無いのでできないのです。日本で麻の栽培が復活したらあらゆる企業が着眼する可能性が出てくるのではないでしょうか。

搾油機

そんな中で、今僕たちが動かしているヘンプカーが2013年に進化を迎えました。
それまでは賞味期限切れの食用の麻の実油をメーカーから譲り受けて使っていましたが、搾油機で麻の実を自分たちで搾りながら走ってみたら燃費が良くなりました。さらに種で走る車になったら、ガソリンスタンドではなく、畑と田んぼが燃料スタンドになることに気づいたのです。
そうなると、車の燃料費を農家さんに還元できる。そうしたらその土地が蘇ってくるなと思いました。

ガソリンスタンドで海外から輸入している化石燃料を買ったら、その代金のかなりの部分を税金で持っていかれて、その一部で武器が作られて誰かが死んでいるとしたら、ヘンプカーの活動がこの悪循環を断ち切る可能性があることに気づいてしまったのです。
それ以降、日本の地域復興を目的としてヘンプカー・プロジェクトを継続させていただいています。

災害に強い社会づくりは環境とマッチした社会づくりである必要があり、そのために、私たちは地下資源ではなく地上資源を使っていくことを提案をしています。
ライフラインがストップしてしまったら、ガソリンスタンドで燃料が買えません。食糧も買えません。
しかし、麻を栽培していれば自らの畑から絞れば燃料ができるし、その副産物を食べることができるのです。

☞ヘンプカー・プロジェクト公式ページ

ヘンププレーン

2016年4月20日、カナダでヘンプ・プレーンが飛びました。全長12メートル4人乗りのヘンプの飛行機です。
機体の75%が麻の茎から作られて、麻の燃料で飛びます。


中山康直(なかやま やすなお)

1964年静岡県生まれ。1996年縄文エネルギー研究所を設立して、環境、伝統文化、歴史民族に関連した麻の研究をベースに麻産業コンサルタントやヘンプ製品の開発業務を行う。
著書に「麻ことのはなし」「地球維新」「奇蹟の大麻草 〜人類への贈りもの〜」ほかがある。


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