スピリチュアルなドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥)
『逃げるは恥だが役に立つ』は2016年に大ヒットしたTVドラマですが、最終話では総合視聴率33.1%を記録したそうです。
今年(2017年)の大みそかと元旦に1話から11話まで全話が一挙に再放送されるとの事です。
ラブコメディなのですが、心の「解放」をテーマにしたとてもスピリチュアルなドラマでもありました。
世の中には、愛情はとっくに冷めているのに義務感だけで結婚生活を続けている夫婦も意外と多いのではないでしょうか。
しかし、このストーリーは世間にありがちなそういうケースとは逆パターンで、もともと恋愛感情の無かった男女が契約によって結婚生活を始めるところから始まります。
大学院を出ながらも派遣社員として働いていた森山みくり(新垣結衣)は派遣切りに遭い、次の就職先として一人暮らしの独身男性、津崎平匡(星野源)宅で家政婦になることを決心します。
最初は週1回だけの通勤でしたが、その後2人の利害関係が一致して「契約結婚」という道を選び同居を始めます。傍から見れば夫婦だが実態は雇用主と従業員という関係でした。
籍は入れずに事実婚という体裁で共同生活を始めますが、平匡の職場の同僚や家族の目をごまかすため毎週火曜日を「ハグの日」にするなどして周囲にラブラブ感を醸し出そうとします。
そうしているうちに、2人の間に徐々に本当の恋愛感情が芽生えてくるのです。すると、自己の内側にそれぞれが持っていたコンプレックスが噴出し、心の葛藤が始まります。
そこで、愛情があってもシステムはあったほうがうまくいくと考えた2人は、システムの再構築をすることを思い付きます。契約書を書き換えて今までの雇用関係を改めて共同経営責任者という関係で生活を再スタートするのですが、それもぎくしゃくしてきます。このようなプロセスを経て最終的に彼らは気づきを起こすのです。
みくりの言葉の中に「承認欲求」「自尊感情」という心理学用語が何度か出てきます。
劣等感が強く自己を高く評価できないということが、このドラマの登場人物たちが共通に持っている課題です。それが自分の心を縛っている「呪い」という言葉の表現で語られています。
最終話では、主人公の2人以外に50歳の未婚女性やゲイの男性らが呪いから解き放たれて、それぞれがパートナーと出逢いハッピーエンドとなります。
平匡やみくりが心の葛藤を繰り返しているシーンで人型ロボットが登場するのもこのドラマの特徴です。
平匡は優秀なITエンジニアで、2人は契約結婚のことを「システム」と呼んでいました。
このような設定になっている理由は、どんなに科学技術が進歩しようが、ロボットには不可能で人間にしか体験できない尊いものがあることをこの物語が示唆しているからなのでしょう。
全体を通して、登場人物のセリフの中に名言がちりばめられています。
「必要だったのはシステムの再構築じゃない、本当の気持ちを伝え合うことだった。」
「人の気持ちは変えられないけれど、人生のハンドルを握るのは自分自身。」
「運命の相手なんかいないと思う。自分が運命の相手にするのだ。」
「どんなに突拍子がなかろうと、イマジネーションは現実を変える力がある。」
「誰かが知っていることを誰かが知らなくて、知らない世界を教え合ったり、そうやって世界は回っている。」
「成りたい自分に成ること」がこのドラマのスピリチュアルなテーマでした。
そのために、頭で考えた契約やシステムなど役に立たないということ。自己信頼が最も大切であること。
そして、成りたい自分に成ることと人を愛することは表裏一体。
エンディングで『恋ダンス』の振り付けと共に流れていた主題歌『恋』は、ドラマに出演している星野源さんの作詞・作曲・歌唱です。
中国の二胡という楽器を入れて、イントロでオリエンタル感を出しています。
この曲の歌詞が難解であることも世間で話題になりました。
恋せずにいられないな 似た顔も虚構にも
愛が生まれるのは 一人から
夫婦を超えてゆけ
二人を超えてゆけ
一人を超えてゆけ
たとえ劣等感だらけの似た者同士であったとしても、虚構の夫婦であったとしても、そこから恋を始めたい。
愛は一人でも奏でることができるものだ。
そして愛の本質とは、夫婦とか二人とか一人という概念を超えたものである。
星野源さんは、自己がパーソナリティーを務めるラジオ番組『星野源のオールナイトニッポン』の中でこのように語っています。
「相手が異性でも同性でも、あと、人間じゃなくても、いろんな恋の形があると思います。それは、地球だったり日本だったり。世界中の中でいま恋というものが変わってきているし、それが普通になってきていると思います。
なので、そういうものを全部含めた、本当にいろんな人に全て恋しているとか、愛を持っている人全部に届く曲にしたいなと思って作りました。」
(編集室)